数字はツールであって、ゴールではない
From 【週刊 戦略調達 vol.81 2010.10.26】
以下抜粋:
数値目標、数値管理をどう使いこなすか、数値目標にどう振り回されないようにするかというのは、一サッカーチームだけの問題ではない。ビジネスの世界でも、数値目標、数値管理は何らかの形でほぼすべての企業のあらゆる現場で用いられている。担当レベルから経営トップの様々な意思決定、評価に数字が使われる。その時に誤った数値に基づいて意思決定、評価していては、望むべき結果が得られない。誤った数値が出てくるのは、必ずしも数値目標のプレッシャーに負けての悪意のあるものばかりではない。単に間違い、ミスということもよくある。数値を扱う時には、データを提出する側もそれを使う側も、数字は意図的あるいは誤って正しい数字が出てこないことが多々あるということを、常に頭の片隅に置いておいた方がよい。
たとえば、我われ調達・購買の世界では、よく価格、コスト削減額といった数値が使われる。サプライヤから非常に魅力的な価格が提示された時、すぐにそれに飛びついてはいけない。なぜ、その価格が出せるのか、それが持続可能かものか、少し考えてみよう。その価格に飛びついて、折角、苦労して技術、製造部門を説き伏せて、そのサプライヤに切り替えた所、その価格は単に今回の注文に限った挨拶価格で、次からの注文ですぐに値上げを要請してくるかもしれない。競合に比べて1割も価格が異なるのであれば、他社にはない技術を用いている、材料・部品を上手く調達している、工程が簡素化されている等の何らかの工夫か、あるいは、それまで調達活動をまったく徹底していなかったといった理由があるはず。
こうした視点は管理者、経営者にも不可欠だ。調達・購買担当者が5%のコスト削減を達成したと報告してきたら、手放しで喜ぶ前にそのコスト削減がどのようになされたかを確認してみよう。単に物流費を切り出して、物流部門に付け替えただけかもしれない。あるいは、単に新規品の取引で初回見積から5%下げただけかもしれない。これでは、貴社のコスト構造、損益分岐点は何も変わっていない。
コスト削減には、取引条件、取引先、仕様など何らかの変更が伴う。担当者の言っているコスト削減が本物ならば、数値の裏にあるそうしたストーリーを報告するのは簡単だ。反対に、出てきた数値にそうした裏付けがなかったら、何かがおかしいと疑うべき。
一つの数値だけ見ていては何も分からないが、その原因、波及効果に思いを寄せれば、その数字が本物かウソかはすぐ分かる。数字一つに一喜一憂するのではなく、その数字がそうであるならば、何がなされ、何が起こっているべきかまで考えよう。そして、そういう施策が打たれているか、起こるべき波及効果が出ているか、違う数字や情報を集めてみよう。そうすることによって初めて元の数値が何を意味するのか、本物の数字かウソのものかが分かってくる。そして、今、何が起こっているのか、これからどうすべきなのか、色々と語りかけてくれる。そうすれば、数字に惑わされることなく、目指すゴールを達成するためのツールとして、上手に数字を活用することができる。
数字そのものは嘘はつかない。数字が嘘をつくのは、それを使う人間によってのみだ。